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2009年1月12日 (月)

この殺人はプロの仕業だ

 真理は隠れている。探し出すのはあなた自身だ。 小野しまと

       ☆       ☆       ☆

 埼玉に住む元厚生次官が、妻とともに自宅の玄関で刺し殺された。翌日、これも元厚生次官の東京中野の家が襲われ、妻が玄関で刺されたが、たまたま留守だった元次官は難を逃れた。

 妻は一命を取り留め、この二番目の殺人は未遂に終わったが、宅配便を装って玄関に入り込み、応対に現れた者をただちに長刃のナイフで数回刺した手口といい、狙いがいずれも元厚生次官だったことといい、同一犯人による連続犯行に違いないと思わせた。

 それと同時に、この事件が、殺しに慣れたプロの仕業であることは明らかだった。始めから終わりまで、シロウトの仕事とはとうてい思えない、実に冷静沈着な行動に終始しているからだ。

 殺しのプロは、人間の身体のどの部分を何回刺せば、相手に致命傷を負わせるかということをよく知っており、的確に仕事の順序を判断すると言われている。

 殺しを初めて経験する者が、度を失い、時には狂乱状態になって、いつまでもナイフを振るったり、無駄な傷を負わせたりするのに反して、殺しに慣れた者は、相手を沈黙させ、死に至らせる深傷を与えた後は、落ち着いて次の行動に移るであろう。

 埼玉での犯行が、犯人のこのような冷静沈着さを想像させるのは、玄関での異変に気がついて現れたと思われる元次官が、大声を上げたにもかかわらず、数秒後にはこれを黙らせる正確な突きを入れ、何回かの刺し傷で倒していることが挙げられる。

 そのあと、この犯人は、残っている人間を捜して、家の中を歩き回ったらしいことが、足跡から推定されている。実に冷静に犯行の完成と後始末を考えているのであるが、このような心境になれるのは、殺しの暴力を自分自身の感情から切り離した、或る任務の遂行と思わないかぎり不可能であろう。

 東京での犯行も、応対に現れた元次官の妻を何回か刺したあと、犯人は、倒れている女性を離れて、元次官の探索に向かっている。

 ただ、犯人の誤算は、女性に致命傷を与えたと判断したことなのであろう。玄関の外へ這い出た彼女にとどめを刺すことができず、不在だった元次官も殺すことができなかった犯人にとって、この東京での犯行は明らかに失敗だった。

 しかし、それでも、車の置き場所まで歩いて戻ったらしいことには、この犯人の、仕事を熟知した落ち着きと冷静さが読み取れるのである。

 ダンボールの箱を持ち、宅配便を装った出で立ちながら、車を遠方に停めたのは、車での逃走に目印を残すような愚を避けたのであろう。

 こんなことは、プロでなくても考える単純なことかも知れないが、それも含めて、シロウトだったら見落としかねない逃走時の配慮が細かく成されている点にも、仕事に慣れた犯人の用意周到さが見て取れるのである。

 犯人を名乗る男が警視庁に出頭していらい明らかになったことのうちにも、この男が真犯人ならば、プロ級の経験を積んだ者でなければ考えられないような幾つかの特徴が含まれている。

 例えば、この男、小泉毅は、5人の元次官とその妻を殺すつもりで10本のナイフを用意していたそうだが、その中ですでに凶行に使われたものには、ナイフの柄に白い布が巻き付けられ、プラスティックの鍔がはめられていたそうだが、これなども、ナイフでの殺しを熟知した者でなければ、なかなか思いつかないことだ。

 10本のナイフを用意したということも、それに類する行為だ。通常は、1本のナイフがあれば、二、三人は殺戮できると思いがちだが、殺しの実際に慣れた者には、一人の刺殺に1本というのが、確実に目的を達するために準備すべき数なのであろう。

 犯行時には刃がこぼれたり、場合によっては折れたりと、予想外の支障が生じることもあるらしい。夫と妻を確実に殺すという目的のある時には、一人に対して1本のナイフを用意しなければならない。これはまさに、犯行の完全性を考える殺し屋の発想ではないだろうか。

 この殺人がプロの仕業であるなら、小泉毅はいつどこでそれを学び、修練を積んだのであろう。

 殺しのプロは、ナイフの刃を上向きにして突き刺すと言われている。犠牲者の遺体解剖の結果はどうだったのか、これも気になるところだ。

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