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2009年1月12日 (月)

Black Heartの誤訳について再び

 真理は隠れている。探し出すのはあなた自身だ。 小野しまと

       ☆       ☆       ☆

 クリント・イーストウッド監督主演の映画「ホワイトハンター、ブラックハート」の中で、「ブラックハート」が「邪悪な心」とか「悪魔の心」などと日本語に訳されていることが、とんでもない間違いだということを前回述べた。

 「ブラックハート」を「邪悪な心」「悪魔の心」とするか、ごく単純に「黒人の心」とするかによって、この映画の内容も意味もまったく違ったものになってしまう。この映画の価値さえ失われかねないであろう。

 イーストウッド扮する映画監督ジョン・ウィルソンがアフリカのケニヤにやって来て最初に出会ったのが、或る女性のユダヤ人差別だった。彼はこの女性をこっぴどくやっつけて追い払うのだが、次ぎに目撃するのはホテルの支配人の黒人差別である。

 その支配人が、黒人の使用人に向かって「脇を歩け、このウスノロめ!」と叫んだ言葉をジョンは許さない。彼は支配人を中庭に呼んでこの行為を咎め、結局殴り合いになるのだが、支配人の強さに圧倒され、何度も地面に倒される。それでも最後まで闘志だけは失わない。

 ジョンのアフリカでの生活が「前座はユダヤ人合戦なら、今はアフリカ人合戦だ」と誰かが言うように、映画の前半は、人種差別への彼の戦いという形で終始する。

 そんな彼が、黒人ガイドのキブと親しくなるのは自然な流れで、自分の気持ちを「最初から分かっているのはキブだけだ」とまで言うのだ。彼はキブに映画の台本を手直しさせたり清書させたりするばかりか、映画の撮影地をキブの村まで移動させたりする。

 キブの村の人々もジョンを大歓迎し、「ジョンは彼らの仲間だ」と周囲の白人たちも言うくらいだ。

 キブは、ジョンの象狩りについても積極的で、ジョンの先頭に立って熱心に目的の象を追い求めるのだ。それがたまたまジョンの身を庇って自らを犠牲にしてしまうところまで行ってしまう。

 苦悩と傷心に打ち沈んで村に戻ったジョンの周囲に村人たちが集まって、太鼓を叩き、歌を歌い始めるのだ。

 「この白人ハンターは、黒人の心を知っている」と。

 そうでなかったら、キブがわざわざ自分の身を挺してまで、ジョンを助けたりはしなかったであろう。村人たちもこのことはよく知っていて、キブに捧げる鎮魂歌として、親友を失って苦しむジョンへの慰めの言葉として、この歌を歌っているのだ。

 二、三回歌ったあと、村人たちは、キブの妻らしき女性をなだめながら、全員で引き揚げてゆく。

 ジョンの心に「邪悪さ」や「悪魔」を想定させる理由は何もないし、仮に村人たちがそんなことを考えたとしたら、黒人である彼らが、わざわざブラックという言葉でそれを表現しようとはしなかったであろう。

 映画を制作する立場から言っても、ブラックの差別的用法と思われかねない、そのような意味をここでわざわざ使うはずがないのである。

 村人たちにジョンへの恨みや憎しみがあったのなら、彼らはいつまでもその場に残り、村から撮影隊を追い出そうとしたであろうし、投石などによる暴動にさえ発展しかねないのである。

 しかし、村人たちの慰めにもかかわらず、ジョン自身の苦悩は、簡単には収まらないのであろう。親しい友を死に追いやってしまったことに複雑な表情を見せながら、彼は、村人たちが去った方向へ夢遊病者のように歩いてゆく。

 そこには、キブの息子であろうか、独り残った子供がいて、何か物言いたげな眼差しで、ジョンのことをじっと見つめているのだ。

 ジョンは脚本家ヴァリルに近づき、
 「君の言う通りだ」と呟く。
 ヴァリルはかつて、ジョンのことを「自己中心的で無責任だ」と決めつけたことがあるのだ。
 「結果としては誤りだった」とジョンは告白する。

 それから、思い直したように、監督用の椅子に戻ると、待っていた撮影隊に向かって「アクション」と叫ぶのだ。とにかく、心機一転、新しい「行動」に一歩を踏み出さなければならない。映画はここでフェードアウトする。

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